『 存在感のある人 』

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図書館の中でも、海外文学の棚を眺める時間が好きだ。遠く見知らぬ国で生まれた物語が、なんらかしらの紆余曲折を経て、遠く離れた島国の片隅の図書館に並んでいると思うと、不思議な感覚に陥る。世界には、実にたくさんの物語が存在して、到底読みきることはできないのだなぁと思う一方、一つでも多くのすてきな物語に出会いたいと、手を伸ばす。

 

タイトル含む背表紙から漂う存在感に惹かれて読んだ『存在感のある人』は、6つの短中編小説集。ブルドッグ、パフォーマンス、ビーバー、裸の原稿、テルビン油蒸留所、存在感のある人。

 

どの話も、読み始めると、すっとその世界を眺めることができる。描かれるべき場面がしっかりと描写されていて、文章が心地良い。あとがきには、「もう33年前だなんて!」との引用があったけれど、どの物語も全く古さなどなく、それぞれの世界に自然に誘ってくれる。きっと、元の文章もちろんだが、日本語訳もすばらしいのだろう。

 

6篇の中では、「裸の原稿」と「テレビン油蒸留所」が印象に残る。

人肌を前に、沸きあがってくる感覚をペンで書きつけていくという不思議な「裸の原稿」。肌に文章を書いていくってどんな感覚なんだろう。どのくらいの長さの文章ができたのだろう。

「テレビン油蒸留所」は、カリブに浮かぶハイチの雰囲気と普通とはまた一味違っているであろう人生の流れが魅力的。この中篇からもっと大きな物語へと繋がっていくような感じがした。

 

アーサー・ミラーは名前を知っているような?くらいの認識だったけれど、これを機会に他の本も読んでみたい。劇作家、代表作は「セールスマンの死」「るつぼ」など。